第5回FP講座「病気やけがによるリスク-まず社会保障」

(制作:安平町 監修:ファイナンシャル・プランナー星 洋子氏)

 日々の生活を送るうえで私たちが望むこと、それは何事もなく家族で幸せに暮らすことでしょう。しかし山あり、谷ありもまた人生です。
 長い人生の中で、予想できる出来事はある程度備えることが可能ですが、思いがけない出来事はいきなりやってきますから、備えもなく慌ててしまいます。
 思いがけない出来事とは「万が一」という言い方もします。その言葉の通り、万に一つのことであり、めったにないけどまれに起こるという意味合いです。

 誰もが病気になりたくない、けがをしたくないと願っています。しかし病気やけがは自分から招くものではありませんから、招かざる客であり人生における万が一の出来事です。
 そして家族の収入を担っている世帯主にとっての病気やけがは、身体の不具合とともに収入が不安定になるリスクとなります。
 では病気やけがによるお金のリスクにどのくらい備えたら良いのか考えてみましょう。
 

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まず社会保障がある

 日本の健康保険は「国民皆保険制度」です。日本に居住している人は年齢や職業などによりいずれかの健康保険制度に加入しています。
 また「国民皆年金制度」により、20歳以上60歳未満の人は国民年金に加入します。会社員などは厚生年金にも加入します。
 社会保険制度では万が一の場合にいろいろな給付があり、これらが社会保障として私たちの生活の支えになります。
 

健康保険の給付

 自営業者などは国民健康保険に加入します。会社員は協会けんぽ(全国健康保険協会)、もしくは勤務先の健康保険組合、公務員や私立学校職員などは各種共済に加入します。
 それぞれの制度から発行される健康保険証が加入の証明であり、医療機関を受診するときの保険診療の証明となります。
 保険証を医療機関の窓口で提示することで、かかる医療費の一部が自己負担になります。ちなみに69歳以下(除:義務教育就学前)の自己負担は3割です。かかった医療費が1,000円なら300円払う計算です。
 さらに健康保険には医療費が高額になった場合の「高額療養費制度」があります。例えば、大病で入院して1か月に100万円の医療費が発生した場合、自己負担が3割なら窓口では30万円払います。
 しかし高額療養費制度で申請をすると、年齢や所得などにより自己負担限度額が決められており、その限度額を超えた額は払い戻されます。

『高額療養費制度』(70歳未満・協会けんぽの場合)

所得区分 自己負担限度額 多数該当
標準報酬月額83万円以上 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% 140,100円
同53~79万円 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% 93,000円
同28~50万円 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% 44,400円
同26万円以下 57,600円 44,400円
市区町村税非課税者等 35,400円 24,600円

上記の表は協会けんぽに加入している会社員の場合の高額療養費です。所得区分の「標準報酬月額」とは、ざっくりいうと毎月の給与の額面金額に近いイメージです。

例えば、標準報酬月額30万円の人の1か月の医療費が100万円だった場合の計算方法は下記の通りです。

本来、医療機関の窓口で払う額は医療費の3割なので 30万円だけど
→「限度額適用認定証」を提示すると
「80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1% = 87,430円」

 限度額適用認定証は加入している健康保険の窓口に申請します。会社員などは勤務先に、国民健康保険に加入している自営業者などは市区町村の役場です。
退院までに家族や勤務先に申請を依頼しておくと良いでしょう。間に合わない場合は後日の申請でお金が戻ってきます。
加入している組合によっては、一旦3割分を支払い後に後日申請しなくても自動で戻ってくるところもあります。

自己負担限度額は、同じ保険に加入しているなら家族分(被扶養者)を合算できます。さらに上記の表の「多数該当」とは、高額療養費に該当した月が過去12か月以内に3回以上あった場合に4回目から適用になる限度額です。

 また公務員や私学共済、企業の健保組合では、独自の制度(一部負担金払戻しなど)があります。例えば地方職員共済組合の自己負担額の上限額は一般的な所得で25,000円となっております。

 以上から病気やけがに備えるためのお金は、まず医療機関に払う自己負担額を目安にします。
入院日数の短期化により、平均の入院期間は1か月未満(厚生労働省 病院報告 平成30年1月分概数)です。
実際は病気やけがの実態によって入院日数は異なります。また医療機関に払う医療費以外にも、かかる費用があります。
保険外負担の入院時の食事代や雑費などが発生しますから、余裕を見て自己負担限度額の2~3か月分くらいを手元に準備できると安心でしょう。
 

傷病手当金

 協会けんぽや各種共済、勤務先の健保組合に加入している会社員(国民年金の第2号被保険者)は、病気やけがで4日以上仕事を休み、給与がもらえない場合は、傷病手当金が支給されます。
 1日当たり標準報酬日額(前述の標準報酬月額の1/30)の2/3に相当するお金が、欠勤4日目から1年6か月の範囲でもらえます。こちらもざっくりというと給与の額面金額の2/3程度になります。
 日頃から毎月の給与でやりくりできているなら、生活費についてはなんとか傷病手当金でまかなうことができるはずです。ただし傷病手当金が実際に振り込まれるまでには時間がかかりますから、やはり当面(1~2か月分くらい)の生活費の備えは必要です。
 一方で自営業者が加入する国民健康保険には傷病手当金制度がありません。働けない期間の収入減には、預貯金や民間の保険で備えるなどの自助努力が必要です。
 

障害年金

 20歳以上60歳未満の人は国民年金に加入します。自営業者とその配偶者などは第1号被保険者です。会社員・公務員などは第2号被保険者、その配偶者は第3号被保険者です。会社員などの第2号被保険者は厚生年金の被保険者でもあります。
 病気やけがなどで生活や仕事が制限される状態になった場合、障害年金があります。
 初診日に国民年金の被保険者で、その後障害の状態にある場合、国民年金から障害基礎年金が支給されます。
 また初診日に厚生年金の被保険者である会社員などは、障害基礎年金と障害厚生年金の両方を受けられます。
 

障害年金の種類


 障害の状態により下記の種類になります。

障害基礎年金 1級
障害基礎年金
2級
障害基礎年金
障害厚生年金 1級
障害厚生年金
2級
障害厚生年金
3級
障害厚生年金
3級より軽い場合
障害手当金
 

障害基礎年金


2020年4月分からの年金額
1級 781,700円×1.25+子の加算 子の加算 「第1子・第2子」各224,900円
「第3子以降」各75,000円
2級 781,700円+子の加算
※日本年金機構より
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150514.html
 
 例えば1級の障害で子が一人の場合、年額で約120万円です。障害認定日や保険料納付要件、支給要件や子の要件などがありますので、詳細は上記の日本年金機構のサイトを確認ください。
 

障害厚生年金


2020年4月分からの年金額
 
1級 報酬比例の年金額×1.25+配偶者加給年金額 配偶者加給年金額
224,900円
2級 報酬比例の年金額+配偶者加給年金額
3級 報酬比例の年金額 最低保証額586,300円
4級 報酬比例の年金額×2 一時金

※日本年金機構より
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-02.html

 報酬比例の年金額は厚生年金に加入している期間の給与等に応じて計算した部分です。毎年届くねんきん定期便に記載の年金額から、ある程度確認できます。加入期間が25年未満の場合は300月とみなして計算します。

 このように障害厚生年金はそれまでの給与によって年金額が異なるので具体的な試算は難しいですが、仮に3級の場合は最低保証が約60万円です。
 先ほどの一例として、子一人の場合、障害基礎年金の約120万円と合わせて180万円になります。月額にすると15万円です。

 配偶者加給年金額の配偶者にも要件がありますので、こちらも詳細は上記サイトをご確認ください。
 

病気やけがによるお金のリスク-まず社会保障のまとめ

 健康保険制度や各年金制度は、生活者の万が一のときのセーフティネットとなります。
ご自身の加入している社会保険はどのような給付制度になっているのか確認しましょう。

よく万が一のために手取額(生活費)の半年分を備えましょうとか、耳にされると思います。その理由は社会保険の給付で足りない分を自助努力で備えるということです。
 そして大前提として日頃から月の収入でやりくりすることが大事です。また万が一のためのお金はすぐに引き出せる預貯金で準備しましょう。

 次回は社会保障や預貯金で不足する分を備える保険として民間の生命保険と医療保険の種類についてです。

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