早来地区義務教育学校 建築設計「アトリエブンク」プレゼンテーション

9年間の旅。
ここにしかない、そのときにしかない、そして隣人、自分が世界と出会う場所。

(この内容は、2021年7月16日に行った、「安平町早来地区義務教育学校設置」の記者会見をもとに編集・執筆したものです。)

 この記事では、早来地区義務教育学校 建築設計を行っている株式会社アトリエブンク様のプレゼンテーションをご紹介します。※スクロールと同時にプレゼンテーションを読み込みます。クリック後、拡大表示します。


プレゼンテーション内容

司会)アトリエブンク様は、アトリエ系の建築設計事務所で、道内の学校の建築設計を中心にご活躍されており、本校でもご担当頂いております。これまでの学校にはない考え込まれた空間設計や、地場産の木材を使用するなど、限られた予算の中で最大限のメリットをもたらすよう創意工夫されたご提案を日々いただいております。
プレゼンターは、「株式会社アトリエブンク」執行役員設計部長 菊池規雄様です。それでは菊池様よろしくお願いします。

(菊池規雄様プロフィール)


菊池氏)アトリエブンクの菊池と申します。よろしくお願いします。
今お見せしているのが、ついこの間まで木々に溢れていた敷地の状況です。今の小学校、仮設の中学校、こども園が集まっている場所となっています。


菊池氏)今回、教育環境研究所さま、チームラボさまと一緒に、今まさにデザインを詰めているところです。その中で、ICT環境設計を担当されているチームラボさまが参画していたのでという訳ではないですが、ICTというのは何ができるのだろうと我々なりに考えていました。ICTが可能にした事は、どこでも・いつでも・誰とでも、広く繋がることで、「世界を広げる」という事です。一方で、建築というのはどんな事ができるかというと、物理的な場所の提供です。我々ができる事は、ここにしかない・そのときにしかない、そして隣人がいるということを大事にして、建築で「世界を深める」ということです。


菊池氏)これが全体の配置です。
「ここにしかない」ものとして、緑溢れる丘、小川があります。それらをそのまま活かした配置にしています。通常ですと、学校の敷地は割ときれいに整地してしまいますが、あえて丘を残し、「すずらんの丘」と名付けています。それに沿うように建物を配置しています。教室は、全部丘に向いています。小学校に当たる6年間の前期課程、中学校に当たる3年間の後期課程を分節しながら配置しています。


菊池氏)こども園の方から見た様子です。
建物は、周囲の建物とスケール感を合わせ、色んな屋根、形、高さを持っているものにしています。なぜかというと、親しみやすいスケールとすることで、ここに住む町の方々にどんどん訪れてもらいたいからです。玄関は2つあり、1つは学校専用の玄関です。もう1つは、町の方々を迎える玄関があります。それぞれを分ける事によって気軽に町の方が訪れることができるものを模索しています。


菊池氏)屋根を外した図です。
屋根をどうやって作っているのか、なぜそのように作るのかという事を示しています。普通の学校ですと教室部分については、専門的に言うとRCラーメンという構造、大きな空間を作る必要のある大アリーナのようなところはスパンを飛ばすことができる鉄骨というのがスタンダードですが、この建物は、木造トラス、RCラーメン、それから鉄骨造も使っています。鉄骨の組み方もトラスともう1つはラーメンという形式で、多様な構造形式をつかって、それぞれの構造を活かした多彩な空間を用意しています。 なぜそうしているかと言うと、行くたびに毎日変化がある小さな町みたいなものを作りたいからです。


菊池氏)こちらは、どのような材料をどのように使えば良いのかということをどのように考えたのかという事を示しています。
1つは安平町が持っている素材や形を活かすことです。もう1つは、「自分が世界と出会う場所」というコンセプトを意識して”世界”の街並みから色々ヒントをもらっています。それと、ここは北海道ですから、風土に培われた素材を使っていくというのがこの形のルーツになっています。


菊池氏)建物の中の話になります。「分ける」というよりも「混ざる」という事を重視したいと思っています。混ざる事で「共創」、つまり、共に創るという事が生まれるのではないかと考え、あえて「ぐちゃぐちゃ」な状態を作っていきたいと思っています。その方法として、大きく3つのエリアに分けて作っています。
1つは「開放エリア」。図書室に当たり、町の方々はいつでも行くことができます。
それから「共用エリア」。学校の授業などで使っていないときは、町の方々が自由に使うことができます。
こういうシステムを作るために、ICT環境設計を担当するチームラボさまが新しい技術を取り込んで、安全に適うような仕組みにします。
それと、子ども達が基本的に使う「専用エリア」です。義務教育学校の9年間、毎日通っていたら飽きます。飽きないように色んな工夫を施します。
1年生・2年生の教室 は先生の目の届く職員室に近い所で、外にすぐ出られるような場所にしています。3・4年生になると子ども達は極めて自律的になってきます。ちょっとした隠れ家となるように2階へ配置しています。5・6年生は、この町の人の一員になることを期待されています。町の方との交流の核になってもらうために、学校の胆として「共用エリア」や「開放エリア」に近い中央部に配置しています。後期課程は、教科センター方式という形になり、各教科専用の教室を設け、そこで授業を受けることになります。そのため、専用のリビングみたいな所として「ホームベース」を用意します。7年生のホームベースは、中1ギャップと言いますが、中学生になったとたん急に環境がかわってビックリしないように5・6年生の並びに配置します。8・9年生になると既に大人です。一番奥で、静かな、学校の守り神のような場所にホームベースを作っています。


菊池氏)「共用エリア」・「開放エリア」・「専用エリア」とそれらを繋ぐ場所の説明をしたいと思います。
赤く点線で囲われた「開放エリア」である図書室がこの学校の核になります。ここは、町の方が自由に入れる場所です。それに対して、「専用エリア」は基本的に自由には入れません。その間に、「共用エリア」と教室を繋ぐ「光のプロムナード」があります。この4層の構造は、チームラボさまから出たアイディアを具現化したもので、お互いの資産を使い合うという事ができるようになっています。それから5・6年生の教室からは、ここに「町の方々が来てなんかやっている」という事を目の当たりにすることができます。あるいは逆に、ここでやっている子ども達の姿を町の方々に見ていただくことができることから「共創」がスタートする場所となります。「キッチンスタジオ」と「創作アトリエ」の様子も見ることができます。それから児童生徒の玄関です。朝登校したら、既におじいさんが本を読んでるかもしれない。とにかく、ここに来たら誰かに会うことができます。図書室には「町のリビング」を設けています。町の方々が過ごしやすい場所を作って、ここにくれば「誰かが必ず居る」。そういう場所を作りたいと思っています。


菊池氏)先ほど教室を繋ぐ部分を「光のプロムナード」と説明しました。普通は教室を真っ直ぐ並べてしまいますが、あえてでっぱりや引っ込みを作って街並みのようにしています。教室は、言ってみれば自分の店です。店で色んなものを考え、光のプロムナードという街路に出してくれたらいいなと思っています。ハイサイドライトをつけたり、いろいろな場所に窓をつけています。これらが、1年中・毎日変化をもたらします。


菊池氏)光の変化の様子をシュミレーションしています。
これは夏至の1日です。朝は、児童・生徒が過ごすメインの場所になる教室が最も明るい時間になります。朝行ったら教室は光にあふれている。昼になると、だんだんと光のプロムナードや図書室方面の辺りが明るくなっていきます。夕方は、光のプロムナード・教室より西側が明るくなってきて、教室を出て放課後を存分に楽しんでもらいたいと考えています。


菊池氏)教室をご紹介します。こちらは2階の3・4年生で、教室ごとに全て違う作りにする予定です。


菊池氏)英語教室です。
木造の小屋組を使っています。先ほど素材の話をしましたが、この地域には炭鉱の坑道に使うカラマツが多く植えられていています。炭鉱は無くなってしまいましたが、一部にカラマツを使った集成材を使用して木造のトラスを作ります。


菊池氏)こちらは大アリーナです。大アリーナは鉄骨造のトラスとなっています。木造の所、鉄骨の所と、構造を変えることで違う空間を用意しています。


菊池氏)こちらは中アリーナです。
同じ鉄骨造でも、門型のラーメン構造 を作って支えています。ここに町の方など誰もがやって来て、子ども達と一緒に交わるという事が大切だと思っています。


菊池氏)今、敷地にはもう無くなってしまったかもしれませんが、こんな小さな花が咲いていました。この場所に、この時期に咲くものです。そういうものをこの場所ならではのものを見つけていきたい。「ここにしかない、そのときにしかない」 を大切に。それを発見できるような学校にしたいと思っています。


(プレゼンテーション終了)

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